尾張の百姓の子として生まれ、織田信長の草履取から一気に天下人へと駆け上がった豊臣秀吉。その秀吉が初めて“城持ち大名”として足跡を残したのが、ここ長浜の地でした。
そんな長浜の城下町で、人々の誇りと絆を今に伝えるのが、毎年4月9日から17日にかけて長濱八幡宮や市街地で開催される「長浜曳山まつり」です。
かつて秀吉は、長浜町の年貢を200石免除し、商人たちに町の繁栄を約束しました。その恩恵は江戸時代にも脈々と受け継がれ、商人の町として大きく栄えた長浜では、絢爛豪華な曳山(ひきやま)が町を練り歩くこの祭りが生まれたのです。
今回は、今もなお長浜の誇りとして多くの人々に愛され続けている長浜曳山まつりの見どころに迫ります。
長浜曳山まつり(ながはまひきやままつり)
長浜曳山まつりは、長濱八幡宮や市街地で毎年4月に開催される、江戸時代から続く伝統行事です。
長濱八幡宮の祭礼である氏子たちによる長濱八幡宮のご祭神・誉田別尊(ほんだわけのみこと=応神天皇)、足仲彦尊(たらしなかつひこ=仲哀天皇)、息長足姫尊(おきながたらしひめのみこと=神功皇后)への感謝と子どもたちの成長を願って行われます。
◾️「長浜」の誕生
天正3年(1574)、織田信長の命により浅井氏の旧領・北近江を任された秀吉ははじめ小谷城を拠点としましたが、後に琵琶湖に面した今浜に新たな城「長浜城」を築きました。そして「今浜」と呼ばれていたこの地を「長浜」と改め、ここを拠点に天下の足がかりを築きました。
この改名には「長久の繁栄を願う」とともに、秀吉の尊敬する信長から「長」の一字と「浜(今浜)」を組み合わせたともいわれています。
◾️長濱八幡宮の再建
八幡宮(長濱八幡宮)は、延久元年(1069)に源義家の願いにより、京都・石清水八幡宮を勧請して創建された由緒ある神社です。義家は、武運長久と平和を願ってこの地に八幡神を祀ったと伝えられています。
各地で戦乱が続いた戦国時代に、北近江の地はその影響を大きく受けたことによって八幡宮も荒廃しますが、秀吉が長浜城主として城下町の整備を進める際にこの八幡宮の復興に尽力し、天正9年(1581)に再建されたと伝わります。
◾️秀吉と長浜曳山まつり
秀吉が振る舞った砂金を元に造営された曳山が起源だと伝わる豪華絢爛な曳山(山車)
その煌びやかで美しい様子から「動く美術館」と称される
秀吉は男子が誕生した際、その喜びを祝って町人に砂金を振る舞ったと伝えられています。これを基に町人たちが曳山を造営したという伝承が町には残っています。
また、源義家の凱旋の様子を模した武者行列を行い町の繁栄を願ったものが、今日の長浜曳山まつりで執り行われる「太刀度り」の起源だと伝わります。
このようにして、町人の誇りと祝福の心から生まれた祭りが、現在も受け継がれる「長浜曳山まつり」や、豪華絢爛な曳山(ひきやま=山車)の基礎となり、やがて町全体を挙げた大イベントへと発展していったのです。
長浜曳山まつりがたどった文化遺産への道
例年は4基ずつが交代で巡行する曳山(ひきやま)
江戸時代から町の発展をともに祝ってきた人々の手によって引き継がれてきた長浜曳山まつり。昭和54年(1979)に重要無形民俗文化財に指定され、昭和60年(1985)には、長浜の町中に伝わる13基の曳山と曳山を収蔵する山蔵が滋賀県の有形民俗文化財に指定されました。
さらに、平成28年(2016)に日本各地の33の「山・鉾・屋台行事」とともにユネスコ無形文化遺産に登録されました。
長浜曳山まつり 見どころ紹介
祭りが始まる前の3月20日頃からは、春休みに入った子ども達が朝・昼・晩と台詞の読み習い、節回しなどの厳しい稽古を繰り返し、毎年4月9日から17日に行われる長浜曳山まつりに挑みます。祭りは長浜の町中を舞台に多彩な行事が行われ、市民や観光客などの多くの人々を魅了します。
◾️まつりの始まりを告げる「起こし太鼓」
未明から夜明け近くまで、若衆が笛・太鼓・スリガネによる「シャギリ」で、町内の祭礼関係者の家々の戸を叩き、起してまわります。
◾️登り山
自町狂言を終えて、昼過ぎから子ども役者を載せた曳山が、四番山から順に長濱八幡宮の境内に集まります。
◾️夕渡り
午後7時頃、長濱八幡宮から曳山博物館の辺りまで、子ども役者が若衆に付き添われて歩きます。道々で狂言(歌舞伎)の振付を町衆に披露し、翌日に行われる狂言奉納の知らせをします。
◾️長浜曳山祭の起源「太刀渡り(たちわたり)」
太刀渡りは長浜曳山まつりの起源となった行事で、長浜城主時代の秀吉によって始められたと伝わります。15日の朝、大太刀を付けて武者姿を模した男子が、力士と呼ばれる若衆に先導されて、長濱八幡宮に渡る行事です。
◾️”動く美術館”と称される「曳山」
長浜曳山まつりではいくつもの行事が行われますが、その1つが曳山巡行。江戸時代中期〜後期に伝統技術を集結して作られた「曳山(ひきやま)」と呼ばれる絢爛豪華な山車が街中を巡ります。
◾️大人顔負けの迫力「子ども歌舞伎」
曳山の上で演じられる「子ども歌舞伎」は1700年代から続く伝統です。曳山を所有している町の組織「山組」の中から選ばれる12歳頃までの男子によって演じられます。厳しい稽古を積んだ子どもたちが華やかな衣装で名演技を披露し、大人顔負けの迫力で多くの観客を魅了します。
長浜曳山まつり
【開催地】滋賀県長浜市・長濱八幡宮とその周辺の市街地
【アクセス】JR長浜駅から徒歩約10分
【主な観覧場所】大手門通り沿い、長濱八幡宮境内など
スポット紹介
◾️長濱八幡宮
長浜城主であった豊臣秀吉の厚い保護を受け、千年の歴史をもつ長浜の氏神様。毎年4月に開催される「長浜曳山まつり」の中心地として多くの観光客で賑わいます。歴史好きの方や、伝統文化に触れたい方には、ぜひ訪れていただきたい場所です。
長濱八幡宮
滋賀県長浜市宮前町13-55
【電話】074-96-20481
【参拝時間】制限なし
【アクセス】JR琵琶湖線「長浜駅」から徒歩約15分、北陸自動車道「長浜IC」から車で約15分
http://www.biwa.ne.jp/~hatimang/
◾️曳山博物館
国の重要無形民俗文化財およびユネスコ無形文化遺産に登録されている「長浜曳山まつり」の歴史と魅力を体感できる施設です。曳山の舞台を実物大で再現した模型や、実際に祭りで使用される曳山の展示のほか、長浜曳山まつりの子ども歌舞伎の映像を上映しており、祭りの臨場感を楽しめます。
曳山博物館
滋賀県長浜市元浜町14-8
【電話】0749-65-3300
【料金】大人(高校生以上)600円、小・中学生300円、小学生未満無料
【営業時間】9:00~17:00(最終入館16:30)
【休館日】月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始(12月29日~1月3日)
【アクセス】JR琵琶湖線「長浜駅」から徒歩約7分
https://nagahama-hikiyama.or.jp/permanent/
祭りの時期以外でも、長浜曳山まつりの魅力を年間を通じて体感し、曳山の美しさや町衆文化の奥深さを感じることができるスポットをご紹介しました。長浜を訪れる際は、ぜひ立ち寄ってみてください。