滋賀県北部に静かにたたずむ余呉湖(よごこ)。その穏やかな湖面がまるで鏡のように周囲の山々を映し出すことから「鏡湖」の名でも親しまれています。
琵琶湖の内湖を除けば県下で2番目の広さを誇る静かなこの湖には、天女が舞い降りたという「羽衣伝説」や、悲しき姫の物語「菊石姫伝説」など、水にまつわる神秘的な伝承が残っています。
また、天正11年(1583)、羽柴秀吉と柴田勝家が覇権を賭けて争った「賤ヶ岳の戦い」の舞台ともなりました。
今では、冬になるとワカサギ釣りに多くの人が訪れ、湖畔に広がるその賑わいは湖北の冬を彩る風物詩として愛され続けています。
今回は、そんな余呉湖の絶景に迫ります。
余呉湖(よごこ)〜数々の伝説が残る絶景スポット
余呉湖(滋賀県長浜市 琵琶湖国定公園内)
滋賀県北部、賤ヶ岳(しずがたけ・標高約422m)をひとつ隔てた場所に、静かにその姿をたたえる余呉湖(よごこ)。
面積約1.8平方キロメートル・周囲約6.4km、水深13mで、三方を緑深き山々に囲まれた断層盆地に位置しています。
別名「鏡湖」とも称されるその湖面は、風のない日にはまるで鏡のように空と山を映し出し、訪れる人の心を静かに包み込みます。平成29年(2017)には、滋賀県北部(湖北地域)にある美しい景勝地8ヶ所を選定した「湖北八景(こほくはっけい)」に選定されました。
羽衣伝説の残る神秘の湖・余呉湖
天女像と余呉湖(滋賀県長浜市)
神秘さを感じさせる静謐なたたずまいから、余呉湖は古来より湖を舞台とした伝説が語り継がれてきました。
なかでも代表的なのが「天女の羽衣伝説」と「菊石姫伝説」です。
◾️天女の羽衣伝説
この地には、8人の天女が白鳥に姿を変え、水浴びを楽しんだという「羽衣伝説」が残されています。
ある日、余呉湖のほとりに住む若者が、湖で水浴びをしていた天女たちを見つけました。その美しさに心を奪われた与七は、そっと天女のひとりの羽衣を隠してしまいます。
羽衣を失った天女は天に帰れなくなりますが、やがて与七と結ばれて2男2女をもうけたと語り継がれています。しかしある日、偶然にも天女は隠されていた羽衣を見つけてしまいます。天の世界への恋しさに心揺れた天女は、子どもを残して空へと帰っていってしまうのでした。
羽衣を隠したのは「桐畑太夫」とも伝わり、その子が菅原道真であるという異説もあります。
今でも余呉湖の湖畔には「天女の衣掛柳」と呼ばれる場所があり、天女が羽衣を干したという伝説の地として知られています。また、天女と与七の子孫がこの地域の人々の祖先になったという話もあり、地元の人々の心に深く根付いた物語です。
◾️菊石姫伝説
菊石姫伝説の蛇の目玉石が祀られている様子(滋賀県長浜市)
平安時代、この地を治めていた領主・桐畑太夫(きりはた・だゆう)の娘・菊石姫は、慈悲深く、美しい心を持つ姫君でした。
ある年、余呉の地を干ばつが襲い、村人たちは飢えと渇きに苦しんでいました。その姿に心を痛めた菊石姫は、天に祈りを捧げた末、自ら余呉湖に身を投じて龍神となり、雨を降らせたといわれます。
やがて人の姿に戻れぬまま湖に棲むこととなった姫ですが、かつて自分を育ててくれた乳母が病に倒れたことを知ると、姫は己の目玉を抜き取り、それを病の薬とするよう湖から投げ渡しました。
その目玉がぶつかったとされる湖畔の石には、今も「蛇の目玉石」と呼ばれる不思議な痕が残されており、人々は姫の深き慈悲と霊力に思いを馳せています。
「賤ヶ岳(しずがたけ)の戦い」の名残をとどめる余呉湖周辺
賤ヶ岳山頂付近(滋賀県長浜市)
余呉湖の西側にそびえる賤ヶ岳は、かつて秀吉と柴田勝家が激突した「賤ヶ岳の戦い」の舞台
山頂からは、竹生島が浮かぶ雄大な奥琵琶湖、滋賀県一の高峰・伊吹山、穏やかな湖面の反射が美しい余呉湖など、湖北を一望するパノラマが広がる
余呉湖周辺は、織田信長亡き後に羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)と柴田勝家の間で繰り広げられた「賤ヶ岳(しずがたけ)の合戦」の舞台にもなった土地です。
◾️信長亡き後、天下の命運を握った「賤ヶ岳の戦い」の舞台
天正10年(1582)、本能寺の変により織田信長が非業の死を遂げると、後継者争いが一気に表面化します。
その後継の座をめぐって浮上したのが、当時の織田家の中で有力であった羽柴秀吉と、織田家の筆頭家老・柴田勝家です。
両者はかつて同じ主君に仕える家臣同士でしたが、信長の後継者としての座をめぐって対立します。
天正11年(1583)春、舞台は琵琶湖北岸、余呉湖の静かな湖面を見下ろすようにそびえる「賤ヶ岳」周辺にて、北から南下する柴田軍とそれを防ぐ羽柴軍が対峙し、両軍が雌雄を決する大決戦が繰り広げられました。
戦局は序盤、柴田軍が優勢に。羽柴軍は劣勢に立たされますが、岐阜から賤ヶ岳まで、約50kmをわずか1日で踏破するという“美濃大返し”を敢行。撤退する柴田軍を強襲し、形勢は一気に逆転しました。
この戦で特に名を上げたのが、秀吉の旗下で勇ましく戦う7人の精鋭たちでした。勝利によって天下統一への足がかりを手に入れた秀吉は彼らの戦功を称え、後に「七本槍(しちほんやり)」として語り継がれていくことになります。
絶景を堪能!余呉湖周辺〜賤ヶ岳エリアの楽しみ方
余呉湖周辺と、羽柴秀吉と柴田勝家が天下をかけて戦った舞台「賤ヶ岳」は、穏やかな自然に包まれた絶景スポットとして親しまれています。
◾️琵琶湖と余呉湖を望む「賤ヶ岳」でハイキングやトレッキングを満喫!
賤ヶ岳山頂からは、余呉湖を一望できる
賤ヶ岳は、リフトを利用した気軽な登山から、余呉湖を一周するハイキングコース、さらには山本山への縦走ルートまで、体力や興味に応じてさまざまな楽しみ方ができるのも魅力のひとつです。
賤ヶ岳の登山道には中川清秀の墓や猿が馬場といった歴史的な史跡が点在し、まさに戦国の古戦場を歩くような趣を味わうことができます。山頂からは、北には静かにたたずむ余呉湖、東には浅井長政の居城・小谷山、そして雄大な伊吹山の峰々、南には竹生島と広大な琵琶湖が遥かに広がり、まさに近江の大地を見渡すことができます。
自然と歴史が交錯する賤ヶ岳は、心に残る旅のひとときを与えてくれることでしょう。
賤ヶ岳リフト
賤ヶ岳山麓の木之本町大音から一気に山頂付近まで上がることができる
麓から山頂エリアへは「賤ヶ岳リフト」でのアクセスが便利。リフトを降りてから徒歩10分ほどで古戦場跡に到着します。
途中には「七本槍」の記念碑や合戦の要所を示す解説パネルも設置されており、当時の戦局に思いを馳せながら散策を楽しむことができる、歴史好きにはたまらないロマンあふれるスポットです。


山頂エリアにはベンチやテーブルが設置されており、休憩がてら景色を堪能できる
「戦いのあと」(賤ヶ岳山頂付近)
山頂付近には「戦いのあと」という岩場に腰かける武者の像があります。重い甲冑を身に着けて戦いに挑み、疲弊しきった様子が伝わってきます。
ハイキング情報や周辺観光の詳細は賤ヶ岳リフトのHPをご覧ください。
賤ヶ岳リフト
滋賀県長浜市木之本町大音
【電話】0749-82-3009
【料金】大人500円、小学生300円(片道)大人900円、小学生500円(往復)
【営業時間】9:00~17:00(11月以降は16:00まで)
【運行期間】4月下旬頃〜12月上旬頃
【アクセス】北陸自動車道木之本ICより車で3分、土日祝のみ、北陸本線木ノ本駅から無料シャトルバス運行
https://www.shizugatakelift.jp/
◾️サイクリングで余呉湖の絶景を満喫
春の余呉湖湖畔
春の訪れとともに、余呉湖は花と緑に彩られた絶景の季節を迎えます。レンタサイクルや散策でのんびり湖畔をめぐれば、導水路沿いに咲き誇る桜や菜の花を楽しむことができます。
湖畔を走ると、鏡のように静かな湖面に映る山々や空の色が移ろい、心まで洗われるような美しさに出会えます。また、ソメイヨシノ、オオシマザクラ、八重桜など、種類豊かな桜を眺めるのもおすすめです。
また、余呉湖はバードウォッチングの名所としても知られ、オオバンやカンムリカイツブリなどの野鳥たちが四季折々に訪れます。美しい湖面に集う鳥たちの姿を、静かに見守るひとときも旅の思い出に。
JR余呉駅前の「余呉駅コミュニティハウス」では、レンタサイクルを1日500円から利用可能。旅のプランに合わせて柔軟に楽しめます。
レンタルサイクルの詳細はこちら
https://kitabiwako.jp/spot/spot_21298
余呉湖
滋賀県長浜市余呉町
【電話】0749-53-2650(長浜観光協会)
【アクセス】JR北陸本線余呉駅から徒歩約5分、北陸自動車道木之本ICから車で約10分
◾️関西屈指のワカサギ釣りポイント「余呉湖」で釣り体験
湖岸には、神秘の湖にひそむ巨鯉をねらう釣り人たちの釣り竿が林立する
余呉湖の北岸にある釣り桟橋では、冬季になるとワカサギを狙う釣り人たちで賑わう
余呉湖には、余呉湖と琵琶湖にしか生息しない希少なイワトコナマズをはじめ、ワカサギ、フナ、コイ、ウナギ、ナマズなど多くの魚が棲み、夏にはフナの群れが水面近くを回遊する幻想的な光景が見られます。冬には白鳥などの水鳥が羽を休めに訪れ、湖北の自然の豊かさを物語ります。
湖岸には、静かな湖面に向かって釣り人たちの竿がずらりと並び、神秘の湖にひそむ大物のコイを狙う熱気が漂います。
とくに、余呉湖の北岸に設けられた釣り桟橋では、コイやフナが一年を通じて釣れるほか、夏にはウナギやナマズも狙うことができ、季節ごとに違った釣りの楽しみがあります。
そして冬には、この地の風物詩ともいえるワカサギ釣りが最盛期を迎え、多くの釣り人たちで湖畔はにぎわいを見せます。四季折々に表情を変える余呉湖は、自然の恵みと静けさに満ちており、釣り人にとっても魅力あふれる場所となっているのです。
釣具は湖畔の漁協事務所でも購入可能なので、手ぶらで訪れても安心です。湖の散策ついでに釣りを楽しんでみてはいかがでしょうか。
余呉湖漁業協同組合(ビジターセンター内)
長浜市余呉町川並2380-1
【電話】0749-86-3033
【アクセス】JR北陸本線余呉駅から徒歩約10分
【料金】大人1,600円、子供800円(わかさぎ竿釣)1,300円(こい・ふな・もろこ・うなぎ竿釣)※釣具及び釣り餌の販売あり
https://www.zc.ztv.ne.jp/yogoko-g/newpage2.html
見る・動く・感じる。多彩な楽しみ方が詰まった余呉湖。滋賀を訪れる際には、ぜひ少し足を延ばして、その自然とふれあうひとときをお楽しみください。